鯨統一郎作品の感想

※ネタバレ注意

早乙女静香(というより宮田六郎)シリーズ

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

鯨氏のデビュー作にして最高傑作。
舞台はとあるバー。客として訪れた歴史学者・早乙女静香に、たまたまカウンターに座っていた自称ライターの宮田六郎が奇想天外な異説を唱え、激しい歴史バトルが展開される。

といった内容の六編が収められており、特に表題作の「邪馬台国〜」は出色の出来。個人的に織田信長の章は微妙でしたが、全体としては非常に面白く読めました。
歴史に少しでも興味のある方なら(あるいは興味がなくても)、強くおすすめします。


そして続編がこれ。

新・世界の七不思議 (創元推理文庫)

新・世界の七不思議 (創元推理文庫)

アトランティス」 「ストーンヘンジ」 「ピラミッド」 「ノアの方舟」 「始皇帝」 「ナスカの地上絵」 「モアイ像」についての異説が展開されます。
どうしても前作と比べると…といった感想です。必ず日本と結び付けるラストもこじつけが酷くてマイナスポイント。
まあ、「邪馬台国〜」が面白かった方ならそれなりに楽しめると思います。


さらに最近、シリーズ第三弾が発売されました。

新・日本の七不思議 (創元推理文庫)

新・日本の七不思議 (創元推理文庫)

(悪い)評判はある程度聞いていましたが、これ程とは…

  • 原日本人の不思議…話の進み方が今までの対立形式ではないので、宮田の説がユニークなのかそうでないのか伝わりづらい。
  • 邪馬台国の不思議…一作目「邪馬台国はどこですか?」の続編。しかしネタが少なすぎてスカスカな感じ。
  • 万葉集の不思議…今までの題材と比べると馴染みが薄いせいか、異説を聞いても「へぇ〜」位にしか思えませんでした。
  • 空海の不思議…本書の中では一番良かったかな。
  • 本能寺の変の不思議…こちらも一作目「謀反の動機はなんですか?」の続編。これもネタが薄すぎ。
  • 写楽の不思議…至極真っ当な説のような気が。
  • 真珠湾攻撃の不思議…題材自体が近代すぎて、このシリーズにそぐわないように思います。

まあ、はっきりいっておすすめはしません。

桜川東子シリーズ

他にも「邪馬台国〜」みたいな作品はないかなと探していて見つけたのがこのシリーズ。
あるバーの常連客である主人公(刑事)が持ち込んだ数々の難事件を、客の女子大生・桜川東子が西洋の童話(一作目)・日本の昔話(二作目)・ギリシャ神話(三作目)の新解釈になぞらえて解いていく。

九つの殺人メルヘン (光文社文庫)

九つの殺人メルヘン (光文社文庫)

それぞれの章での犯人のアリバイが、有栖川有栖「マジックミラー」内で九つに分類されたアリバイトリック

  • 犯行推定時間に錯誤がある場合
  • 証人が錯覚をしている場合
  • 遠隔殺人
  • 犯行現場に錯誤がある場合
  • ルートに盲点がある場合
  • 証拠物件が偽造されている場合
  • 誘導自殺
  • 証人に悪意がある場合
  • アリバイがない場合

を網羅しており、また「本当は怖いグリム童話」などで紹介され尽くした感はありますが、童話の新解釈もそれなりに楽しめます赤ずきんちゃんの章のトリックはいくらなんでも…とは思いますが)
小説全体のラストも意外性があり、なかなかよく出来ていると思います。



浦島太郎の真相―恐ろしい八つの昔話 (光文社文庫)

浦島太郎の真相―恐ろしい八つの昔話 (光文社文庫)

今宵、バーで謎解きを (カッパ・ノベルス)

今宵、バーで謎解きを (カッパ・ノベルス)

続編二作は正直かなりイマイチな感想。
新解釈・トリックの種明かしの部分が非常に短く、一作目からあった「懐かしネタ」が物語の大部分を占めています。
一作目のキャラクター・雰囲気がかなり気に入った方なら…といった感じでしょうか。


上記2シリーズの、早乙女静香と桜川東子が活躍する作品

すべての美人は名探偵である (光文社文庫)

すべての美人は名探偵である (光文社文庫)

もあるのですが、正直キャラクターに魅力を感じない為、あまり読む気がしません。
しかし、次に紹介する作品のキャラクターは気に入りました。

波田煌子シリーズ

伝説のセラピスト・波田煌子が所長を務めるメンタルクリニック「なみだ研究所」。そこで働くこととなった臨床心理士の主人公が目にしたのは、子供のような容姿にダサいファッション・心理学の知識もほとんどないとぼけた女だった。しかしなぜか彼女は患者の心の悩みを次々に解決していく…。
まあかなりユニークというか強引な展開ですが、患者個人の心の問題なので読んでいてそれ程気になりません。
ちょっとせつないラストも良かったです。



迷宮入り事件を専門に扱う警視庁の部署にプロファイラーとしてスカウトされた波田煌子は、独特の推理で次々に犯人像を言い当て事件を解決に導きます。
この作品での彼女はあくまでも外部の人間といった感じで特捜班の他のメンバーとの交流はあまり感じられませんでした。



なみだ学習塾をよろしく! (祥伝社文庫)

なみだ学習塾をよろしく! (祥伝社文庫)

第三弾ではなぜか学習塾の事務員に就職した波田煌子。「心理学関係ないじゃん!」と思いましたが、読んでみると3作品の中で一番面白かったです。
各章で塾生達にさまざまな事件(家出・カンニング疑惑・いじめ等)が起こるのですが、相手が中学生だからか、あのとぼけた彼女から「優しさ」が感じられます。
氏の「邪馬台国〜」以外のオススメは?と聞かれたら私はこのシリーズを推したいと思います。


蒼い月 なみだ事件簿にさようなら! (ノン・ノベル)

蒼い月 なみだ事件簿にさようなら! (ノン・ノベル)

シリーズ完結編。
長編ということもあり、今までのシリーズのイメージで読むと肩透かしを食らうかも。
題材も重めな為、波田煌子のとぼけた感じがあまり無く残念。

タイムスリップシリーズ

森鴎外が2002年の渋谷にタイムスリップ!
女子高生2人組の助けを借りながら、自分を殺そうとした犯人・そして同時期に文学界に起きた最大のミステリーに迫る。
芥川龍之介葛西善蔵小酒井不木梶井基次郎宮沢賢治小林多喜二佐々木味津三直木三十五林不忘夢野久作牧野信一中島敦新美南吉矢田津世子小栗虫太郎太宰治…この作家たちに共通するものは?
恥ずかしながら、鴎外を一作もまともに読んだことのない私でも全く問題なく楽しめました。これはおすすめです。
タイムスリップ明治維新 (講談社文庫)

タイムスリップ明治維新 (講談社文庫)

前作で森鴎外を助けた女子高生・麓麗(ふもと うらら)が今度は幕末の日本にタイムスリップ!
歴史を改変しようとする敵から真の歴史を守ろうと活躍する。
幕末と言えば、有名人がゴロゴロ。さらにオリジナルキャラクターまで出てきて、かなり駆け足な展開。
邪馬台国はどこですか?明治維新の章を読まれた方なら、ニヤリとする場面も。
タイムスリップ釈迦如来 (講談社文庫)

タイムスリップ釈迦如来 (講談社文庫)

生徒の麓麗とともに古代インドにタイムスリップしてしまったダイビングスクールの校長にして敬虔な仏教徒の吉野。そこで彼が出逢ったオカマの僧侶こそブッダであった!仏教を世界宗教にする為、彼と麗が奔走する。
設定を見た時は「これは面白そう」と思ったのですが、ストーリーが壮大になりすぎて一巻に収めるには無理があったのでは?
※重大なネタバレの為、反転
鴎外のラップは許せても、ソクラテスの「マツケンサンバ」は自分的にはナシでした…
タイムスリップ水戸黄門 (講談社文庫)

タイムスリップ水戸黄門 (講談社文庫)

タイムスリップ戦国時代 (講談社ノベルス)

タイムスリップ戦国時代 (講談社ノベルス)

タイムスリップ忠臣蔵 (講談社ノベルス)

タイムスリップ忠臣蔵 (講談社ノベルス)

タイムスリップ紫式部 (講談社ノベルス)

タイムスリップ紫式部 (講談社ノベルス)