パンズ・ラビリンス 感想


デブでオタクで天才。「メキシコのピーター・ジャクソン」と呼ばれるギルレモ・デル・トロ監督の新作『パンズ・ラビリンス』は批評家から大絶賛され、アカデミー賞まで獲りそうな勢いだ。
デル・トロは、マーヴェル・コミックス原作の『ブレイド2』を撮った後、母国メキシコでスペイン語の芸術映画『デビルズ・バックボーン』を作り、またハリウッドでコミック原作の『ヘルボーイ』を監督した後、メキシコに戻ってスペイン語の『パンズ・ラビリンス』を作った。
パンズ・ラビリンス』は、『デビルズ・バックボーン』と同じく軍事独裁政権下のスペインを舞台にしたファンタジー。デル・トロの学校の先生はスペインで内戦に敗れてメキシコに亡命して来た民主主義者だったそうだ。
ヒロインのオフェーリアは11歳の少女。母が再婚した男はファシスト軍の将校で、森に潜むレジスタンスを虐殺し、拷問している。オフェーリアは森の奥の迷宮の遺跡で牧神パンと出会い「あなたは地下世界の王女です」と言われ、三つの使命を課せられる。
オフェーリアは『不思議の国のアリス』が着ていたエプロンドレスを着て冒険を始めるが萌えているヒマはない。ファシスト軍のレジスタンス狩りは血みどろのバイオレンス。オフェーリアが出会うのも、おぞましい化け物ばかり。幼児を食らう怪物ペイルマンは顔は口だけ、目は手の平にあって、日本の妖怪「泥田坊」そっくりだが、デル・トロは「スペインの画家ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』をヒントにデザインした」と言う。
ファシスト政権下のスペインで森で妖精に会う少女といえば『ミツバチのささやき』(73年)が有名だが、『パンズ・ラビリンス』は宮崎駿版『ミツバチのささやき』である『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』からも影響を受けている。
パンズ・ラビリンス』で映画作家としての評価を確立したデル・トロは、ラブクラフトの『狂気の山にて』映画化に野望を燃やしている。あれ、大友克洋に直接会って交渉してた『童夢』は?(町山智浩/映画秘宝2007年3月号)

2007年公開。
ギレルモ・デル・トロ監督の作品は先日『ヘルボーイ』を観たばかりですが、本作の方が数倍面白く感じました。
どちらにも共通しているのが完成度の高い独特のファンタジー世界観。
聞くところによるとハリウッド作品である『ミミック』『ブレイド』『ヘルボーイ』ではいわゆるB級テイストを、同じくスペイン語映画である『デビルズ・バックボーン』では本作と共通するようなダークで物悲しい側面を打ち出しているとのことで、作家性を持ちながらも職業監督としても優秀な人なのかなという印象を受けました。
さて、恥ずかしながら「映画秘宝」の年間ベスト2位の作品と知るまでは存在すら知らなかった本作、観る前は多くの方と同じように「不思議の国のアリス:ダーク版」といった印象でした。展開もプロローグ(現実世界)〜本編(幻想世界)〜エピローグ(現実世界)みたいな感じかなと思っていたら、二つの世界が交互に描かれ、むしろ比率が多めの現実世界の悲惨さ・逃げ場の無さが容赦なく少女を追い詰めていくといった内容。ハッピーエンドともアンハッピーエンドとも取れるラストも秀逸でほぼ完璧といっていい作品ではないでしょうか。
あえて重箱の隅的なことを言わせてもらえば、虫(ナナフシ?)の描写がリアル過ぎて気持ち悪い(笑のと、主人公の少女が幻想世界で、食べてはいけないと言われていたある食べ物を口にしてしまうシーンでの描写がそこまで美味しそうに見えなかったところ(監督が多大な影響を受けているらしい宮崎駿氏はここが凄い)位でしょうか。
幻想世界が全て少女の妄想であったと考えれば(実際そうとも取れます)もはやファンタジー映画ですらなく、そういったジャンルが苦手な方にも是非観て欲しい傑作です。


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