トレーニング デイ 感想

  

本作が描くのは、新米刑事(イーサン・ホーク)の研修初日の朝から夜中まで。ホークの教官(デンゼル・ワシントン)は犯人から押収したマリファナをホークに吸わせる。「ヤクの取締官ならヤクを知っておけ」。そうですか、と吸ってみたが「へんぱい、ハッパにしては効き過ぎれふよ」「PCP(幻覚剤)が入ってるからな」「これもけいじのひごとれすか?」「いや、オレはやったことない(笑)?!?!
マルコムX』『ザ・ハリケーン』と歴史上の偉人ばかり演じてきた正義の味方専門役者デンゼルは、黒革ロングコートに金ピカのチェーンでFUCK連発しながらパトカーを飲酒運転、無実の市民の家を捜索して金を強奪、勤務中に愛人の家にシケ込んで昼間から一発、とやり放題。ホークもさすがに不安になるが、デンゼルが「正義は綺麗事じゃないんだ。オレはお前にタフな刑事になって欲しいだけさ」といつもの神々しい笑顔を見せるとつい信じて……。気がつくと『悪魔のいけにえ並みの崖っぷちに!
リプレイスメント・キラー』のフクア監督は色褪せた画面と手持ちカメラでL.A.をドキュメント・タッチで捉えて汚名返上。数10時間に限定した脚本(『ワイルド・スピード』のD・アイヤー)も斬新(オチはちょっと弱いが)。
デンゼルはもちろんホークも生涯ベストの熱演。悪徳刑事Dr.ドレ、ゲロ吐きスヌープ・ドッグ、おばはん演技メイシー・グレイも爆笑。男なら魔法だのアニメだの怪獣だのに逃げないで、デンゼルの悪の通過儀礼を受けろ!町山智浩/映画秘宝2002年3月号)

2001年公開。監督のアントワーン・フークアの印象を一言で表すなら「骨太アクション映画の名手」です。

↑彼のフィルモグラフィ。個人的に最高傑作だと思っているのは『ザ・シューター/極大射程 』。エンターテイメントに振り切った『エンド・オブ・ホワイトハウス 』も結構好きです。

さて、本作はデンゼル・ワシントンがアカデミー主演男優賞を受賞した事もあり、フークア作品の中でも知名度や評価が頭一つ抜けている印象。
個人的にも主演俳優二人の名演やL.A.ギャング地区のリアルな描写等、作品自体の面白さには何の不満もありません。ただし(監督の全ての作品を観ている訳ではないのですが)、何となくこの映画は他作品と比べフィルモグラフィから浮いているイメージを受けました。おそらくその要因は製作・脚本のデヴィッド・エアーにあるように感じられます。

エアーの出身地はまさに本作の舞台となっているサウスセントラル地区であり、現地でのロケや本物のギャングたちの出演などにも彼が尽力したと思われますし、製作に名を連ねていたり後に監督デビューを果たしているのを見ても、かなりの影響力があったのではないでしょうか。

彼の監督作は『フューリー』しか観た事がなくイメージで話してしまって恐縮なのですが、初期のL.A.を舞台にした作品たちで評価を受けつつも、『スーサイド・スクワッド』に代表されるように大作を撮るようになってからはハリウッドのシステムに苦戦している印象。

そんなエアーの個性と職人・フークアの手腕が見事にマッチしてこの傑作が生まれたのかな、なんて思いました。