「乙嫁語り」 感想

森薫さんという漫画家をご存知でしょうか?
彼女の名前を私が初めて知ったのは、数年前漫画サイトで紹介されていた「エマ」という作品からでした。

エマ (1) (Beam comix)

エマ (1) (Beam comix)

*平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞
その時はメイド服のキャラクターを見て「あー、萌え〜みたいな漫画ね。」と全く食指が動かなかったのですが、そのサイトで薦められていた印象が残っており、暫く経ってから古本屋で見かけた際に立ち読みをしてみました。
実際に読んでみると私が想像していたものとは全く異なった、19世紀のイギリスを舞台にした上流階級の青年とメイドの身分違いの恋愛を描いた本格的な作品で、何より驚いたのは作者による衣装・背景・風俗等の執拗なまでの描写による圧倒的な世界観でした。
私は「この人はヴィクトリア期のイギリスが大好きなんだろうな。」と思いながら作品を楽しませてもらったのですが、
その森さんの次の新連載は、なんと中央アジアシルクロード周辺)だと聞き驚きました。
それが今回紹介させていただく乙嫁語りです。
時代は19世紀。遊牧をやめ都市に定住している一家の息子・カルルクなんと12歳!)のところに騎馬部族の娘・アミル(20歳)が嫁いで来るところから物語が始まります。
   カルルクとアミル
現代日本の感覚では「カルルク若っ!」となりますが、どうやら当時の常識ではアミルの方が完全な「嫁き遅れ」のようです。
この他にもこの地方でのさまざまな文化・習俗が描かれ、非常に興味をそそられます。
一例を挙げると、アミルは騎馬民族の出身で弓の名手であり、それを知ったカルルクの姉の息子たちが自分も弓が欲しいとせがむシーンがあります。
彼らの父はまず家長であるカルルクの父の許可を得た後、

子供たちへの弓の指導をアミル本人ではなく、夫であるカルルクに頼みます。

このたった2コマで
・家父長制
・妻の行動には夫の許可が必要(あるいは女性はみだりに夫以外の男と口をきかない?)
という文化である事が分かる、といった次第です。
そして、相変わらずの精緻な描きこみ。

女性作家でここまで画にこだわる方は珍しいのではないでしょうか。
連載は現在6話まで進んでおり、年内には単行本が出ると思われます。
追記:10月15日発売!
乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

物語はアミルの一族が政治的策略から彼女を取り返そうとするなど不穏な動きも見えて来ていますが、
個人的には、あまりドラマチックな展開よりも主人公夫婦の日常の風景を中心に私の知らない文化・習俗を描いて行って欲しいと思っています。
*第1話冒頭部分が読めますhttp://www.enterbrain.co.jp/jp/p_pickup/2008/fellows/index.html
Fellows! 総集編 乙嫁語り&乱と灰色の世界 (BEAM COMIX)

Fellows! 総集編 乙嫁語り&乱と灰色の世界 (BEAM COMIX)